長州閥による雑談




 春もうららの昼下がり。それはいつものように参議木戸孝允の一室に長州の馴染みの顔が集まり、昼食を終えてすぐのことだった。
 昨今は賑わいの場を好まなくなった木戸だが、こうして馴染みの顔が自分を気にして集まってくれていることには感謝している。一人取り残されたならば、今の自分ならば「鬱」に取り込まれてしまっていただろう。
 ありがとう、と心底では手を合わせている。大切な大切すぎる馴染みの仲間たちへ。
「木戸さん、この頃は笑顔が多くなりましたね」
 伊藤博文がニコッと人の良い笑顔を滲ませ、木戸を見据えてきた。
「いいなぁ、その笑顔。僕はとっても安心します。ついでにドキリともしますけどね」
 最期には苦笑を僅かに刻んだ伊藤に、「ドキリ?」と木戸は僅かに首をひねった。
 その動作一つ一つに多少だが幼さが含んでおり、伊藤は「ハハハハ……」と乾いた笑いを漏らしてしまう。
「僕も僕も木戸さん。ドキリとしてしまいますよ。木戸さんの笑顔は本当にね……僕いっつもおかしなこと想像しちゃう」
「おかしなこと?」
「木戸さんが女の子だったら、どうなっていたのかなぁって。……だって奇麗過ぎだよ」
「三十過ぎた男に奇麗とは……市は口がうまいね」
 良い子良い子と山田顕義の頭を撫ぜる木戸は、穏やかな涼風がその身を包んでいる。今日はとても体調もよく、上機嫌のようだ。
 この明治に入り消え入りそうな儚さに身を包まれ、その黒曜石の如し瞳には絶えず憂いを刻んできた木戸である。理想とするものが、決して現実では適わない焦燥が身を焼く。それが月光の下が似合う美しき貴公子の心を僅かに歪ませてしまった。
 だが岩倉使節団副使として洋行して以来、木戸の心情は少しばかり変わってきたようである。……幕末の時ほどの笑顔ではないが、心からの笑顔を木戸は見せる。 そのことに長州閥は少なからず安心を抱いていたのだが……かの佐賀の乱の首謀者江藤新平に木戸は敬意を抱いていたこともあり、処刑の後はしばらくの間は伏せていた。
 ようやく木戸は悲しみを克服したようである。
 山田は自らが五尺に届かない背丈であることに劣等感を抱き、自らが「小さい」ことを意識させる扱いには徹底した反撃に出るのだが、昔から木戸にだけは「良い子良い子」と頭を撫ぜられても怒ることはない。むしろニコニコと喜んでいるといった感じだ。
「木戸さんが女性でしたら、きっと……求婚の列に並びます」
 ふむふむと伊藤は一人で納得しているが、
「俊輔。よぉく考えてみろよ。この人が女性だったら……間違いなく高杉が放っておくわけないじゃないか」
 なにせ男でも最後の最後まで放っておかなかっただろう?  井上馨がしたり顔で、ふぅふぅと珈琲を息をかけて冷ましながらゴクリと飲む。
 極度の猫舌は全くいつまでたっても変わらない。
 本日の昼食に集まった人間はというと、ざっと木戸を抜かして七人いる。参議兼工部卿伊藤博文。現在政界よりとある事情で離れている井上馨。 危うく清国駐剳特命全権公使にされかけた陸軍少将山田顕義。現陸軍卿人呼んで陸軍の王山県有朋。元独逸留学生の一人で、現木戸家に居候中の青木周蔵。同じく洋行より戻った書記官品川弥二郎。 陸軍少将にて木戸崇拝者の三浦梧楼といった七人。この七人に唯一共通することはと言えば一括りにして「長州閥」であることだけである。
「でも聞多。確かに高杉さんの性格からして絶対に天地がひっくり返っても木戸さんを嫁にすると思うけど、でも六歳年下でしょう? 無理じゃない?」
「あの高杉だ。年の差などなんともないさ。桂さんが男だとわかっても……何で男同士は結婚できないんだ。この国の道徳や法律を変えてやるとまで言っていたぞ」
 かつてを思い出すように井上はとてつもなく遠い目をしている。
「……そんな仮定の話をしてもどうしようもないよ」
 木戸が仮定説を止めにかかったが、長州閥はこの「仮定説」に夢中になっている。
「いいなぁ高杉さんは。僕ももう少し年上でもう少し……身分があったら、きっと木戸さんに求婚する列に加わっていましたよ」
 伊藤は至極本気といった顔で言った。
「伊藤さんみたいな腹黒。誰が木戸さんが相手にするものか。……木戸さん、女の子だったら僕のお嫁さんになってよ」
「ダメだな、市。おまえなどどこまでいっても弟だ」
「煩い! 井上のお義父さん。この頃、小うるさすぎて白髪が増えてきたんじゃないでぇすか」
「義父は敬え」
「敬っているじゃないですかぁ」
 山田の妻滝子は、この井上馨の養女である。そのためことあるごとに井上に「義父は敬え」といわれている。
「それにお義父さん。本当は……自分が木戸さんが女の子だったら嫁に欲しいんじゃないの」
「なっな……。いや……ここらの連中の中では確かに俺が一番に可能性があるな。年は二歳しか変わらん。家同士もそれなりの仲だ」
「なんか本気だね、お義父さん」
「聞多ぁ、本当は木戸さんに惚れているんでしょう」
「黙れ、煩い。俺様は仮定の話をしているだけだ」
 井上がまだ幼名の勇吉を名乗っていたころ、木戸を女性と間違え本気で求婚しようとしたという話を知るものは今のところはいない。
「諸君。少しは落ち着いたらどうだ。仮定説は良いとして、これでは馬鹿な遠吠えに聞こえなくもない」
 一人静かな顔に僅かな苦味きった歪みを乗せ、珈琲を飲む品川弥二郎が口を出した。
「弥二。その馬鹿な遠吠えって誰のこと?」
 品川と仲が宜しくない伊藤が噛み付いた。
「当然自分が入ってくると思っているからこそ、口を挟んだのではないのか、伊藤」
「呼び捨てにするな。僕は弥二よりは年上だ」
「二歳しか変わらぬのに偉ぶるところが小物の証拠ともいえる。……そこに小さく一応は見える市を見てみるといい。弥二より二歳年下だというのに、遠慮なく俺を呼びすてにしている」
「だぁれが一応は小さく見える市だって。弥二……おまえは一言いつも多いんだよ」
「見えるだけ良いではないか。昔はどんなに探しても見えなくて困ったものだ。ひそかに一寸法師とあだ名をつけていたほどでな」
「だあーぁれが一寸法師のように豆ほどの小ささしかないチビだ」
「自覚していてよきことだ、市」
「弥二~~」
 この二人、村塾で机を並べて吉田松陰に学んだ仲である。こう見えてすこぶる仲良しなのだが……人は犬猿の仲とも呼ぶ。品川は山田が可愛いのだが、山田にして見ればこの皮肉と嫌味家に腹が煮え立つほどの思いを抱いているようだ。
「市さんはまぁ横に置くとして、伊藤についてはお前の言うとおりだと思うよ、弥二」
 見かけは童顔で理知的な端正な顔をしている青木周蔵は、品川の一番の悪友でありこちらは毒舌家である。
「おまえまで呼び捨てにするか、青木周蔵」
「小物のくせに公の傍らを我が物顔をして占領している伊藤博文。俺は君が大嫌いだから、呼び捨てで十分だ」
 そして品川同様にこの青木も伊藤が大嫌いである。
「……弥二も周蔵も俊輔も市も……仲がよろしくないのかい」
 他藩に比較すると個性主義だが仲が良いことで知られている長州閥である。その首魁の木戸はいつも口ではもめることがあろうとも、皆が仲が良いことを自慢としているだけに、この険悪な雰囲気に悲しい顔をした。
「公、僕の公」
 木戸崇拝者にして、はっきりといえば木戸にほれ切っている青木は、表情を百八十度変え、また木戸の前では一人称を「僕」に変換しにこりと笑う。
「仲良しですよ。僕が公を悲しめることをするはずないじゃないですか」
 猫なで声になり木戸に抱きつこうとする青木を、コチラは一人茶をのんでいた山県が襟首を掴んで引きとめた。
「山県さん、なにをする」
 端正な顔立ちだが棒と称されるような長身の山県は、その北国の永久凍土と称される気と地獄の深淵を思わせる風情を持って木戸の傍から青木を遠ざけた。
「どうしたのだい? 狂介」
「貴兄は知らなくともよいことだ」
 青木の「木戸病」は、当の木戸以外は周知のことである。
 木戸はといえば可愛がっている青木に抱きつかれようが、ほお擦りされようが、肩に顔を埋めようが、頬にキスをされようが気にしないのだが、スキンシップが例え行き過ぎている長州閥と言えども、 木戸に対するこの青木のスキンシップは行きすぎだと警戒しているようだ。
「陸軍卿。公に可愛がられている僕に対するそれは悋気ってやつですかね」
 ジロリと山県に睨み据えられ、青木は軽く肩をすくって見せた。
「周蔵。あまり山県を挑発しない方が身のためだ。この友達がいない男には木戸さんという得がたい純粋さは特別と言えるものだ」
 山県にポイッとされた青木を、よしよしと品川は可愛がりつつも、きわどい台詞を山県に吐く。
「品川」
「何か。義叔父上」
 にんまりと笑った表情をするが、品川は瞳に僅かに「剣」を潜ませて山県を見据えた。
 山県の姉壽子は勝津兼亮に嫁ぎ多くの子どもを得た。その中の二男伊三郎は後に山県が養子として迎えることになる。そして壽子の長女静子は数年前にこの品川弥二郎の妻となった。
 山県は姪にあたる静子、たつ子、そしてこの時点では生まれてはいないが登喜という姉妹たちをことのほか可愛がっていた。姪たちもこの寡黙で無表情たる叔父の性格を熟知した上で懐いているというところからして只者ではない。 静子が山県の家に遊びに来ているときに、品川と出会ったらしい。山県は品川より五歳年長なだけであり、可愛い姪をこんな皮肉家に渡してなるものか、と思ったらしいのだが。
『山県よ。今後のことをよく考えてみろ。そこらの馬の骨に姪を奪われるよりは、この先開けた将来がある村塾出身の弥二に渡した方が無難というものではないか。将来この弥二を敵に回すか、親戚として味方にしておくべきか』
 そして静子には『このままでは行き遅れになる。君に求婚する人間は全て弥二が邪魔をする手筈になっているから』といって脅し半分で口説いたといういわくがある。
 ということで品川と山県は親戚関係にあり、それが理由ではないだろうが、それなりに品川はこの山県という男を好いている。
「親戚関係は苦労するな、山県よ」
 ポンポンと井上に肩を叩かれ、確かにこの男も親戚で苦労しているな、と山県は思っただろう。
 この後姪のたつ子の夫となる平田東助にも山県は散々に頭を抱えることになる。余談だが彼自身の娘婿にはさして苦労していないというところが皮肉と言えた。
「桂さんよ。そんなに皆を猫かわいがりしていたら、この青木のように勘違いをする奴らもいるから気をつけな」
 井上の最もな忠告に木戸は首をかしげる。
「青木という毒蛇など近寄らせるとろくなことはないですよ」
 伊藤のニッコリに苛立ち、青木はひそかに伊藤の足を思いっきり蹴飛ばして腹いせをした。
「木戸さん。こんな性格のきわどい人間らばかりで疲れませんか」
 そして此処に木戸が「嫁の来てがあるか」と散々に心配までした三浦梧楼がいる。人呼んで「記憶があてにならない男」 相棒の拳銃を懐におさめ、何かあると銃乱射をはじめるこの男は、普段は人畜無害の大人しい顔をしている。
「梧楼。正直にいって今日はとても疲れたよ」
「本当に癖がある連中ばかりで。木戸さんの心を乱したならば、俺がこの銃で追い出しますからいつでもいってください」
 三浦が言うとそれは九分九厘本音ゆえに木戸は乾いた笑いを漏らした。
「それから、木戸さん」
「うん?」
「次に女性として生まれてきましたら、俺の嫁さんになってください」
「なぁに梧楼ちゃん。僕らを出し抜いて言っているのかなぁ。ボケている梧楼ちゃん」
 山田がそれこそ三浦の首を絞めかねない勢いで後ろより羽交い絞めをはじめた。
「俺は本気です」
「木戸さん本気にしない方がいいですよ。梧楼は昔から昨日何を食べたか忘れるくらい記憶がボケている男ですから」
「伊藤さん。俺は昨日なにを食べ……た……くらい」
「ほら忘れている」
 三浦は必死に昨日の食事を考え始めたのか。腕を組んで静かになってしまった。
「公、僕の公。今度女の子に生まれてきたらこの僕の……」
「青木周蔵は黙っていろ」
 先ほどの反撃だとばかりに今度はドカッと伊藤が青木の足を踏みつけている。
「単に公の傍にいても役に立たず、そればかりかあの薩摩の大久保に取り入るしかどうにもできない伊藤博文」
「言ったな青木。独逸に飛ばしてくれようか」
「ふーん。僕がいるととてつもなく邪魔で公の傍にもいられないから権力に物を言わせて飛ばすんだ。最低な男だな」
「周蔵。それを言うならこういった方がいいぞ。自分の力ではお前一人飛ばすこともできないから薩摩の大久保に縋るしかできないとな」
「さすがは弥二」
 その時点で木戸は思いっきり頭を抱え、傍らに立つ山県の腕を掴んだ。
「疲れたよ、狂介」
「昔の仲間たちに囲まれるは時に寄りけりともいえる。貴兄を疲れさせるとは……」
 その場にいる六人たちを山県は睨みつけた。
 木戸の僅かに伸びた前髪が、木戸の黒曜石の如し瞳にかかる。それをそっと山県は避け、木戸の額に手を置いた。
「熱はないようだ」
「調子は良いのだよ。大丈夫……疲れるけど楽しいね」
「疲れさせることが……気をつけろ」
 ジロリとまず青木周蔵を睨み、続いて三浦梧楼と山田顕義を山県は見据えた。
「なんだか……山県。おまえ……木戸さんの保護者になっていないか」
 品川の一言に、全員の視線が山県に注がれる。
「おまえが……人間に興味なんか全くないおまえが。そうやって木戸さんにだけは昔から……。今まで気付かなかったけど、山県の分際で木戸さんを好きなんてこと思っているんじゃないよな」
「今更だ、市。山県が桂さんを好きなんてことはとうの昔から知っている」
「そうなの……エッ」
 山田はかなり驚いている。
「好きでもない相手にこの山県が、食事の面倒まで見ると思うかよ」
「昔から木戸さんは山県か来原さんの言葉がないと誰が言っても食事をしようとしませんでしたからね」
 僕が何を言ってもダメだった、と伊藤はしょげた顔をした。
「まるで山県は木戸さんの世話女房だな」
 これは皮肉で品川は告げたのだろうが、その台詞に誰もがつい納得してしまいそうになり頭を振る。
「桂さんよ。女の子だったら山県の嫁さんになるか。世話焼いてくれるぞ」
「聞多! なんてことを言うの」
 親友の伊藤に思いっきり殴られた井上はポカーンとし、
「それが親友にすることか」
「言っていいことと悪いことがある」
「……その通りだ。風見鶏伊藤博文、たまにはいいことを言う」
「青蛇は黙っていろ」
「ケンカするほど仲が良いというが、周蔵と伊藤はこれに当てはまるのか」
「弥二。僕と風見鶏伊藤が仲が良くなることがあるならば……それはきっと」
「僕に青蛇が敗北して跪くときかな」
「ないね。伊藤、僕は小物は大嫌いだ」
「自分の才能を自信過剰している男を、僕も好きはしない」
 周蔵……俊輔、とあたふたしている木戸は、この雰囲気にすっかり脱力し疲れきってしまったらしく、山県の肩にトンと身を預け、
「いいよ、狂介で。私は女の子になったら狂介の嫁になる。一番に疲れなくてすむから」
 ついに木戸は爆弾発言を、本人自覚なしに口にしてしまったのである。
 この個性派の中で、一番に今落ち着いて疲れない人間を選びまとめたつもりなのだろうが、これにより全員が山県に向けていっせいに睨み視線を送ってくる。
 それを見据える山県は静かだ。
「貴兄の平穏を守るために、心配されるな。いざとなれば……呪う」
 そしてこの爆弾発言を容認した山県は、最強の武器を持って全員に挑戦状を叩きつけた。
「これは大変だな。山県の呪いに立ち向かう奴いるのか」
 井上は既に高見の見物を決めている。
「なに? 山県は、木戸さんが女の子だったら自ら婿に立候補するっていうの。ガタの分際で」
 山田は不快極まりない。
「市。よいのではないか。おまえと比較すると山県なら背の高さで木戸さんにつりあう」
「弥二~~」
「公、僕の公。山県さんなんか世話女房にしたら暗くよどんでしまう」
「青蛇と山県なら……うーん……どっちがましなんだろう」
 伊藤はどちらも大嫌いな険悪の仲の二人を必死に比べようとしている。
「山県よりも拳銃の腕が確かな俺がお守りいたしますよ、木戸さん」
「どさくさに紛れて木戸さんに抱きつくんじゃないよ、梧楼ちゃん」
「市。その梧楼ちゃんはやめてくれないかなぁ。昔から」
「ふーん。ボケているのに昔から呼んでいることは覚えているんだぁね」
 もはやおさまりそうもない騒ぎに、木戸は頭を抱え始め、すでに……何とか仲を取り持つ気もなくなっている。
「木戸さん。少しばかり外に出た方がいい。この連中は勝手にしているだろう」
「そうだね……狂介。桜が美しいし」
「では……参ろう」
 木戸が山県に手を引かれ、この部屋を脱出したことも知らずに、残された六人はこうでもないあぁでもないと騒ぎ立てている。
 長州閥、たかが七人集まるだけでまともな議論が成り立たず、仲の良い?ケンカばかり。
 これでは寡黙で無表情な山県を「世話女房」に選ぶのは一番に無難な選択かもしれない。
「けどよ、桂さん。本当にアンタが女だったら、俺様も考えるぞ。例え俊輔や市を敵に回そうとな」
 その姿は井上にとっては「理想」であり、あの高杉晋作と戦ってすら手に入れようとした女と間違えた木戸である。
 一人山県に手を引かれて出て行った木戸に気付いた井上は、
 誰にも気付かれぬようにひっそりとそう呟いて、ニタリと笑った。
 全ては架空の論。皆が本気になるのは次の世で、木戸が「女」に生まれ変わったとき。その時スタートラインには一列に並べるのだろうか。
 ……あの高杉晋作がそれを許すかは……やはり知れず。
「今のところは高杉が二歩ほどリードといったところか」
 ふん、と息を鳴らした井上は、
 もしもがあるならば、その高杉に負けない気概がある。そして山県にも。
「青蛇。とざくさに紛れてこの僕をチビといったな」
「どさくさに紛れて市さん。俺を青蛇というな。そういってもいいのは公だけだ」
「木戸さんが呼ぶはずないだろう」
「呼んで欲しい」
「周蔵、あまり小さな市を挑発するでない」
「弥二。おまえはどうして僕をこうまで苛立たせるんだぁ」
「小さくて可愛いじゃないか、市」
「……煩い。チビお子様」
「伊藤に言われたくはない。この風見鶏」
 これでは……この連中らを木戸が「女」になっても選ぶはずがないな、と井上はつくづく思った。


長州閥による雑談

長州閥による雑談

  • 全1幕
  • 長州閥小説
  • 【初出】 2006年ごろ
  • 【修正版】 2012年12月13日(木)
  • 【備考】